近年、自己資金なしでの不動産投資を可能にする「フルローン」に注目が集まっています。
しかし、フルローンによる不動産投資には、銀行の厳格な審査や返済比率の問題、そして失敗のリスクも潜んでいるので注意が必要です。
この記事では、不動産投資におけるフルローンの仕組みから、メリット・デメリット、そして成功のポイントまでを徹底的に解説。不動産投資を成功に導くための必要な情報をお伝えします。
これから不動産投資を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。
不動産投資における自己資金とフルローンの仕組み
不動産投資を始めるにあたって、最も大きな壁となるのが資金調達です。
一般的な不動産投資では自己資金が必須とされてきましたが、近年は「フルローン」という選択肢も注目を集めています。
ここでは、従来の不動産投資における自己資金の考え方と、フルローンの基本的な仕組みについて解説していきます。
一般的な不動産投資に必要な自己資金の目安
一般的な不動産投資では、物件価格の10~30%の自己資金が必要とされています。
たとえば3,000万円のアパートを購入する場合、最低でも300万円、マンションを1棟購入して不動産投資しようと思えば億単位の費用が必要になります。
- 頭金:
ローンを利用する場合でも、物件価格の一部は自己資金から支払う必要がある。 - 諸経費:
登記費用、不動産仲介手数料、税金などの費用が発生する。これらは原則自己資金で支払う。 - 修繕資金:
物件の維持管理や修繕のための資金、また空室時の収入減に備えた運転資金としても必要。
なぜ銀行は自己資金を求めるのか?
これは、投資家自身にもリスクを負担してもらうためです。
「1円も自己資金がない人に3,000万円を貸す」より、「900万円の自己資金がある人に残りの2,100万円を貸す」方が、銀行にとってはリスクが低いのです。
しかし、それだけの自己資金を持っていて不動産投資できる人はそれほど多くはないでしょう。
フルローンの仕組み
フルローンは、不動産投資に必要な金額100%を融資する仕組みです。
物件価格の全額を借り入れできるため、自己資金を手元に残したまま、あるいは十分な自己資金が手元にない場合でも不動産投資を始められます。
クリアする基本的な条件
- 申請者の信用力が高いこと
- 投資物件の価値が十分であること
フルローンは特例的な融資であり、実施していない金融機関もあります。
また、フルローンでは諸経費までは融資対象とならないため、登記費用や仲介手数料などについては別途資金を用意する必要があります。
諸経費は物件価格の3~5%程度になることが一般的ですが、新築か中古か、など物件の状態にも関係します。
フルローンで不動産投資する3つのメリット
フルローンには、通常の不動産投資ローンにはない独自のメリットがあります。
ここでは、主な3つのメリットについて詳しく解説していきます。
- 自己資金を戦略的に活用できる
- レバレッジ効果が期待できる
- 団体信用生命保険の保険効果を最大限活用できる
それぞれについて解説していきます。
①自己資金を戦略的に活用できる
フルローンは自己資金がある状態でも借りられます。
そのため、手持ちの資金を以下のような別の用途に活用できます。
- 物件のリノベーション費用
- 入居者募集のための広告宣伝費
- 予期せぬ修繕への備え
- 新たな投資機会への資金
このようにフルローンは、自己資金を有効活用できるので、不動産投資物件購入後の資金の自由度がとても高くなります。
②レバレッジ効果が期待できる
不動産投資でフルローンを利用することで、自己資金を温存しながら収益を得られるため、レバレッジ効果を最大化できます。
「レバレッジ効果」とは、小さな力で大きな成果を引き出す「てこの原理」に由来する経済用語、投資用語です。
自己資金1,000万円を用意し、利回りが8%の不動産投資を例に考えてみましょう。
パターン①自己資金のみで投資する場合
- 物件価格:1,000万円(自己資金1,000万円を全額投資)
- 年間家賃収入:80万円(利回り8%)
- 借入なし
- 年間収益:80万円(自己資金に対する収益率8%)
パターン②通常の不動産投資の場合
- 物件価格:3,000万円(自己資金1,000万円+借入2,000万円)
- 年間家賃収入:240万円(利回り8%)
- 借入金利:3.6%(年間利息:72万円)
- 年間収益:168万円(自己資金に対する収益率16.8%)
パターン③フルローンの場合
- 物件価格:3,000万円(借入3,000万円)
- 年間家賃収入:240万円(利回り8%)
- 借入金利:3.6%(年間利息:108万円)
- 年間収益:132万円(自己資金1,000万円は手元に残る)
このように、同じ1,000万円の自己資金でも運用方法によって大きく収益が変わります。
フルローンの場合、1,000万円の自己資金を手元に残したまま、年間132万円の収益が期待できるのです。
さらにこの手元に残した資金で別の投資や事業に活用することができます。
③団体信用生命保険の保険効果を最大限活用できる
フルローンを活用することで、団体信用生命保険の保障効果を最大限に活用できます。
団体信用生命保険とはローン契約者がローンの返済中に亡くなったり、高度障害状態(事故や病気で寝たきり、人事不省、認知症など)になったりした場合に、保険金としてローン残額を全額弁済してもらえる制度です。
不動産投資用ローンには多くの場合、団体信用生命保険が付帯されており、投資家が死亡や重病に見舞われた際に、保険が残債を返済する仕組みになっています。
フルローンでは物件価格全額を借り入れるため、この保険効果が最大限に生かされます。
もちろん、保険適用とならない状態が望ましいですが、いざというときのための安心材料になるでしょう。
自己資金を他のリスク対応に回せるため、フルローンを利用することで保険効果とリスク分散の両方が期待できますね!
フルローンで不動産投資する3つのデメリット
フルローンで不動産投資する際にはデメリットもあります。主なデメリットを解説していきます。
- 返済負担が大きくなる
- 金利上昇のリスクが大きい
- 金融機関の審査が厳しい
①返済負担が大きくなる
フルローンは頭金なしで借り入れるため、毎月の返済額が大きくなります。また、返済回数も長くなります。
3,000万円の物件の場合
通常の不動産投資(借入2,100万円)
- 月々の返済額:約10万円
- 年間の返済総額:約120万円
フルローン(借入3,000万円)
- 月々の返済額:約14.3万円
- 年間の返済総額:約171.6万円
一般的にはローンの支払いは毎月の家賃収入から返済することになりますが、何か突発的な事故や急な修繕が重なった際には、毎月のローン返済以外の他に支払いが増えます。
また、空室時の場合は毎月の賃料収入が減ってしまいます。
最悪の場合、家賃収入からだけでは返済できず、自己資金を持ち出すケースもあり得ます。
②金利が上昇し利息の返済が厳しくなる
2024年にゼロ金利政策が解除され、住宅ローン金利は上昇傾向にあります。
フルローンは借入額が大きいため、金利上昇の影響をより強く受けます。
金利が上昇した場合、利息負担が数万円単位で増え、総返済額が大幅に増加するリスクが生じます。金利上昇で、ひと部屋分の家賃が支払い利息に消えてしまう可能性もあるでしょう。
特に変動金利を選択した場合、将来の返済額が読みにくく、収支計画が立てづらくなります。
③金融機関の審査が厳しい
フルローンは一般的な不動産投資用ローンと比べて、審査基準が非常に厳格です。
「収入」「職業」「資産」の面において、厳しい審査が行われます。
フルローンの審査をクリアするための条件
収入面での審査
- 年収2,000万円以上が目安
- 安定した収入履歴(最低でも3年以上)
職業面での審査
- 公務員
- 大手企業の正社員
- 医師、弁護士などの専門職
※自営業の場合は、よほど安定した業績が必要
資産面での審査
- 投資物件以外の資産も担保として求められることが多い
- 自宅などを共同担保にする場合も
- 金融資産5,000万円程度が目安
これらの条件は一般的な不動産投資ローンよりも厳しく、また一度審査に落ちると、その後の融資にも影響が出る可能性があります。
フルローンの融資を受ける際は、事前に金融機関や不動産仲介業者に相談することをおすすめします。
フルローンで不動産投資を行うときの3つの注意点
フルローンは自己資金なしで不動産投資が出来る魅力的な選択肢ではありますが、メリットばかりではありません。
ここでは、フルローンで不動産投資を成功させるために押さえておくべき3つの重要な注意点を解説していきます。
行うときの3つの注意点
- 物件選びが重要
- キャッシュフロー管理を慎重に
- 諸経費の準備が必要
①物件選びが重要
フルローンで不動産投資を行う場合は、なるべく新築物件を選びましょう。
新築物件の場合、入居希望者も多く空室リスクが低いです。
また、当面は修繕の必要がないため、突発的な修繕費用の心配も少なく、確実に毎月のローンを返済できるだけの家賃収入が期待できます。
立地条件も重要!
- 駅や繁華街に近い
- 人口が増加している地域
- 企業や学校が多い地域
新築で立地条件もよい物件は、担保価値も高く評価されるため、フルローンの審査でも有利になります。
②キャッシュフロー管理を慎重に
フルローンで融資を受ける場合、借入額が100%になるため、月々の返済負担が大きくなります。
日々の生活費や日常生活におけるキャッシュフローが悪化するリスクがあるため、しっかりと返済計画を立てておくことが重要です。
返済計画で意識したい点
- 家賃収入の80%程度で返済計画を立てる
- 空室期間を3ヶ月程度見込んでおく
- 修繕費用の積立ても忘れずに
十分な返済計画を確保できるのか、空室や修繕が発生しても支払い余力があるかを確認し、慎重に判断しフルローンを検討しましょう。
③諸経費の準備が必要
フルローンを利用しても、物件購入にかかる諸費用の借入はできません。フルローンで資金調達できるのは購入する土地や建物の費用のみです。
例えば、3,000万円の物件を購入する場合、主な諸経費として以下のようなものがあります。
- 不動産仲介手数料:約99万円(物件価格の3.3%)
- 登録免許税:約60万円(物件価格の2%)
- 不動産取得税:約75万円(固定資産税評価額の4%)
- 司法書士報酬:約15万円
フルローンは「自己資金ゼロで始められる」と言われがちですが、実際には諸経費分の資金は必ず必要になります。
実際に不動産投資を始める前に、この点をしっかりと理解し、必要な資金を準備しておきましょう。
不動産投資における諸費用の料金は、物件価格の7~10%ほどを見込んでおくとよいでしょう。
まとめ:不動産投資は自己資金なしで始められる?フルローンのメリットデメリット
- フルローンなら自己資金なしでも融資を受けられる
- フルローンはレバレッジ効果で大きな投資効果が期待できる
- フルローンは月々の返済金額が多くなり生活を圧迫するリスクもある
- フルローンの融資を受けるための審査はかなり厳しい
フルローンが100%正解というわけではありません。
場合によっては通常の不動産投資ローンの方が低リスクな可能性も十分あります。良い条件の物件であれば、フルローンも十分な選択肢となるでしょう。
フルローンの審査を通るための条件は厳しいため、投資を検討する際は、まずは信頼できる不動産仲介業者に相談することをおすすめします。